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東京高等裁判所 昭和30年(う)810号 判決 1955年8月30日

控訴人 被告人 呉正泰

弁護人 関原勇 柴田睦夫

検察官 池田貞二

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

原審の訴訟費用中証人鵜沢すいに支給した六分の一証人風戸哲三、同吉田信、同廬顕容、同崔栄祐に支給した各九分の一及び証人伊藤功を除いたその余の証人に支給した各十一分の一を被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人関原勇、同柴田睦夫両名共同作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これをここに引用しこれに対して次のとおり判断する。

論旨第一点について。

原判決がその理由において、判示第三の後段の事実として、「(前略)被告人は南万植等多数と共に同会場(大韓民国青年団横芝支部結成式会場)内に故なく侵入し以つて元朝連側多数の威力を示した為右威圧に押されて会場内の民団員は結成式の開始に至らない前に場外に退去するを余儀なくせられ以つて大衆の威力を用いて前記青年団横芝支部の業務を妨害し」との旨を認定判示し、これに対して、刑法第二百三十四条を適用していることは所論のとおりである。しかして、所論は、右は、原判決が刑法第二百三十四条の解釈適用を誤つたものである旨を主張するので、審究するに、刑法第二百三十四条にいわゆる業務とは、継続して従事する仕事をいうものと解されるが、ここに継続するというがためには、継続して行う意思の下になされるものであることを要すると解されるのであるから、仕事の性質上、継続して行うことのできないようなものは、右法条にいわゆる業務の観念に属しないものというべく、従つて、ある団体の結成式というような行事は、その性質上、一回的一時的なものであつて、何ら継続的な要素を含まないものであるから、これをもつてその団体の業務であるとすることはできないものといわなければならない。しかるに、原判決においては、前示のように、被告人が大韓民国青年団横芝支部の結成式の挙行を妨害したとの事実を認定し、その所為が同支部の業務を妨害したことに該当する旨を判示した上、これに対して刑法第二百三十四条を適用しているのであるが、右のような結成式の挙行という行事が、同支部の業務にあたらないことは、前示説明のとおりであるから、たとえ被告人において威力を用いてこれを妨害したとしても、その行為は、刑法第二百三十四条所定の威力業務妨害罪を構成しないものといわなければならない。してみれば、原判決は、ひつきよう刑法第二百三十四条の解釈を誤つた結果、罪とならない事実に対し、不法に同法条を適用したものというべく、この法令適用の誤が、判決に影響を及ぼすべきことは極めて明らかであるから、原判決は、この点において到底破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて、爾余の各論旨に対する判断をすべて省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第一項に則り、原判決を破棄した上、同法第四百条但書を適用して、更に次のとおり自ら判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和二十四年九月団体等規正令により解散の指定を受けた元朝鮮人連盟員であつたものであるが、朝鮮人連盟匝瑳支部が置かれてあつた千葉県海上郡旭町干潟を中心として、元朝鮮人連盟(以下元朝連とも略称する)と大韓民国居留民団(以下民団とも略称する)とは、互に相反目し、両者の間に、しばしば、あつれきを生じていたところ、同県山武郡横芝町の元朝連に属していた朝鮮人間に、漸く民団の勢力がしん透し始め同町居住の韓鐘[吉吉]、李泰学、林述伊らはこれに入団し、右民団の横芝支部を結成しようとする動きを示したので、元朝連員であつた被告人及び元朝連匝瑳支部委員長であつた南万植らは、かかる一部朝鮮人らの動きをもつて、平地に波らんをまき起こすものであるとし、又、右韓鐘[吉吉]らが、素行上兎角の批評のある人物でもあつたため、これに反対し、右同人らにその中止方を申し入れたが、結局右結成式は、主として前記干潟の民団員多数の参加応援をえて、昭和二十五年五月三十日、同町栗山劇場において挙行されることとなつたので、被告人及び前示南万植らは、この上は、元朝連員多数の力によつてこれを阻止するより外はないと考え、同町居住の者のみならず、千葉県下各地に居住する元朝連員に対し、同町への来集を求め、これに応じて来集した元朝連員は、被告人らを加えてその数百数十名に達していたところ、

第一、昭和二十五年五月三十日正午過ごろ、同県匝瑳支部等よりの応援参加をえて、前掲李泰学、韓鐘[吉吉]ら合計約三十名の民団員が、前示横芝町栗山二千七百二十八番地所在の栗山劇場(管理人大木英雄)を借り受け、同所において、民団横芝支部結成式を挙行するに当り、右民団側が、会場附近に続々来集した朝連側による妨害を恐れ、会場入口に受付を設けて、これを場内に入れさせないように努めたのに対し、多数をたのんで、右結成式を妨害阻止しようとする目的をもつて、右南万植ら多数の元朝連員と共に、民団側の制止をきかず、右劇場入口より同会場内に押し入つて、故なく前示李泰学らの看守する同劇場に侵入し、

第二、同日、民団側は、前記会場において結成式終了後、韓鐘[吉吉]、李泰学、林述伊らが、朴性鎮外当日の参加者約三十名を招き同町千五百十八番地富士屋旅館において、同旅館の二階全部を借り受け、前記支部の披露兼懇談会を開催中、これを知つた元朝連員ら約百名位が、同旅館前に来集して気勢をあげ、前記南万植外三名の者が、その代表者として民団側と双方の主義主張につき討論すべく、前記朴性鎮にこれを申し込んでその承諾をえ、同日午後四時ごろ、右二階に上り、同人と激論を交わしていた際、被告人は、廬在謹外多数と共に、右南万植らに加勢するため、民団側の承諾をえないで右二階に上りこんで、故なく前掲韓鐘[吉吉]らの看守する同旅館二階に侵入し、

第三、同年六月三日、前掲廬顕容、韓鐘[吉吉]、李泰学、林述伊らが、再び前示民団員多数の参加応援をえて、千葉県山武郡松尾町八田五十一番地琴平公会堂(管理人加藤全雄)を借り受け、同所において、大韓民国青年団横芝支部の結成式を挙行することになつたので、被告人は、前記南万植らと前記のような元朝連員の来集を求め、これに応じて集まつた元朝連員約百四、五十名と共に、既に会場内に入つていた民団員に対し、入場方を要求したが、拒絶されたので激こうし、同日正午ごろ、右結成式が開始されようとするにあたり、金[火内][吉吉]、崔錫振ら多数の元朝連員らと共に、民団員の制止を排除し、右公会堂正面入口より同会場内に入りこみ、故なく右廬顕容らの看守する同公会堂に侵入し、

第四、右元朝連側は、同日午後二時ごろに至るまで引き続き同会場を多数で占拠しているうち、同公会堂に不慮の突発事に備えて警官隊が来着し、横芝警察署長松崎信善及び同公会堂管理人加藤全雄から、こもごも退去を求められ、又その際出動した同町消防団副団長椎名登から、双方の解散を提唱されたこともあつて、結局これを諒承し、同会場から退場したところ間もなく、これと入れ替えに民団側が同公会堂横入口より入場して、結成式を始めたため、場外に出た元朝連側は、警察官に対し、その措置の不当を鳴らし、我々をも入場させろと口々に要求したが、警官隊は同公会堂の周囲を警護して、前記借用者の意見に反するとしてこれを阻止する態度に出たので、これに激こうし、警官の制止もきかず、無理にも会場内に入りこもうとして、多数で同公会堂横入口及び窓辺に押し寄せ、その際、同日午後二時三十分ごろ、被告人は、巡査吉田信の頭部を手拳で殴打するの暴行を加えて、同巡査の職務の執行を妨害し、間もなく、被告人は、南万植ら多数と共に、前記公会堂横入口又は窓口より同会場内に乱入して、故なく前示廬顕容らの看守する同公会堂に侵入し、

たものである。

<証拠説明省略>

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人の判示所為中第一ないし第四の各建造物侵入の点は、いずれも刑法第百三十条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に、第四の公務執行妨害の点は、刑法第九十五条第一項に各該当するところ、いずれも、所定刑中懲役刑を選択し、以上は、同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文、第十条に則り犯情の最も重いと認める公務執行妨害罪につき定めた刑に法定の加重をした刑期範囲内において、被告人を懲役一年に処し、原審の訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従い、主文第四項掲記のとおり被告人にこれを負担させることとする。

なお、本件公訴事実中「被告人が、判示第三のとおり、故なく廬顕容らの看守する琴平公会堂に侵入して、同公会堂を占拠し、判示青年団横芝支部の結成式を不能ならしめ、以て、団体の威力を用いて、廬顕容等の前記青年団横芝支部結成の為の業務を妨害したものである。」との点については、さきに弁護人の論旨第一点に対する判断において説示したとおりの理由により、罪とならないものであるけれども、右は、判示第三の建造物侵入の罪と刑法第五十四条第一項前段の関係があるものとして起訴されたものと認められるので、主文において特に無罪の言渡をしない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 浅沼武)

関原、紫田両弁護人の控訴趣意

第一点原判決には判決に影響を及ぼす法令解釈の誤あり破棄を免れぬ。

原判決は判示第三後段の事実として「被告人が昭和二十五年六月三日大韓民国青年団横芝支部の結成式会場たる琴平公会堂に多衆と共に押入り、民団員を場外に退去することを余儀なくさせて青年団横芝支部の業務を妨害した」と認定し、これに刑法第二百三十四条を適用している。しかし刑法二百三十四条の業務とは継続して従事する仕事と考えられるものであり、「継続して」とは、継続する意思のもとに為されるものである。従つて団体の結成式の如きは、仕事の性質上継続して行うものにあらずただ一回的行為であるから右法条にいう業務と解することはできない。(大審院大正十年十月二十一日判決より判例の一貫した解釈であろう。)原判決は、法の正常な解釈の域を逸脱し、判例に違反し、法なき域に法を作る暴挙と云うべく原判決はこの点において破棄を免れない。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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